日常の中の非日常。

 

 

ありふれた事件

 

 

 

「てかさ〜科学部そのものが大事件じゃん?」

 

そんな不穏な言葉を発したのは、涼の隣でコーラを飲んでいた慎だった。

涼の机の上には一枚のアンケート用紙。

見出しにはこう書かれている。

 

(新聞部の活動にご協力下さい)

貴方の中で一番の事件といったら何ですか?部活動関連でお答え下さい。

 

「困ったな〜・・・」

 

涼はコトンと額を机につけた。

ランダムに選ばれた生徒に送られたというそれ。

朝登校したら机に入っていて、締め切りは明日の放課後。

だが、目を閉じると浮かんでくるのは、雨宮の満面の笑みだ。

『事件=(イコール)雨宮先輩』

ここまでは仕方ないだろうと思う。

問題は内容だった。

 

「こんなとこに書けっこないよ〜」

 

新聞部のアンケートということは、ここに書いたことは記事になる可能性が高いということだ。

そんなことになって大丈夫な事件が、涼の頭には浮かんでこなかった。

大砲実験で校長室を大破したこと?

重要な職員会議の日に、煙探知機を延々鳴らし続けたこと?

あ〜ブレーカーを落としまくったこともあったな・・・。

格闘ロボ試作機が暴走してバスケ部の部室を廃墟にしたこと?

小型情報収集ロボが教室でいちゃついてるカップルの会話を録音してきて、それを放送で流しちゃったこともあったっけ。

試薬をこっそり投与して生徒を病院送りにしてるなんて、結構いつものことだし・・・。

 

遠い目で思いを馳せていると、ふいに視界に影が生まれた。

 

「おい涼、部活いかねーの?なら俺帰るけど」

 

少し不機嫌な様子の声の主は、蓮だった。

なになに?やきもっち〜?と茶化した慎の頭に、無言でカバン(中身は少ないので軽いが)を投下した蓮を見て、涼は苦笑を漏らす。

そういえば、この幼馴染も事件の発端になりやすかったっけ、と。

銀髪だけでも目立つのに、ちょっと目を離すと授業をさぼってみたり、教師とぶつかったり。

他校生に絡まれてみたり、ファンクラブができてみたり。

部活とは直接関係ないといえば関係ないけど、何かと話題になりやすい蓮だ。

起こしてなくても事件を起こしていると思われているだろう。

氷川蓮がいるから科学部は怖い部活・・・と信じている生徒も少なくないだろうな〜と涼は思う。

 

「ちょっと待って。支度したらすぐ行くから」

 

言いながら、もう一人の話題になりやすい人物を思う。

 

「今日、藤木先輩は生徒会だっけ?」

「・・・しらね」

 

蓮は興味なさそうに答えたが、現部長の藤木もこの高校の有名人であることに間違いない。

カリスマ溢れる生徒会長の右腕にして、容姿端麗、文武両道なのだから。

あの藤木先輩に限って事件なんておこすはずないけどね・・・と思った涼だ。

が、そもそもそんな藤木が科学部なんて胡散臭い部活に入ったことが、2年前一番の事件だったのだ。

 

「あ、セボン呼びに行く?」

 

蓮と共に教室を出た涼は、廊下の途中でふと思い出して言った。

呼びに行かないと拗ねてしまうことの多い唯一の後輩のセボンこと睦月。

カエルの被り物に、独特の語尾延ばしの言葉遣い。

彼もまた、かなりの変わり種と言わざるを得ない。

しかも入学後最初のテストでは、帝都高校始まって以来の低平均点を叩き出しているのだ。

セボンがこの高校に入学できてたことも、ある意味大事件だと涼は心の中で溜め息をついた。

 

教室で居残りをしていたセボンを加え、部室に着いた涼を2人の先輩が迎えた。

片方は怪しい煙を出す試験管を持って、もう片方は分厚い書類の束を携えて。

すでに降参の気分だった涼は、仕方なく全員にアンケートのことを相談してみた。

 

「・・・こういうことなんですけど・・・どうしたらいいと思いますか?」

「事件ですか〜〜?なんだろ〜〜」

 

真っ先に反応したのはセボンだった。

 

「ふむ・・・まだノーベル賞受賞の知らせは届いてないな」

 

非常識なことを言ってるのは雨宮。

 

「ほっときゃいいだろ」

 

クールなのは蓮。

そうもいかないと反論しようとした涼の言葉を、藤木が遮った。

 

「同感だ」

「え?」

 

思いがけない言葉に涼が藤木を見ると、藤木は僅かに眉を寄せ淡々と言う。

 

「このようなアンケートを配布することを生徒会は新聞部に許可していない。

 よって、これは無効となるから、記入する必要はない」

 

拍子抜けした涼を尻目に、藤木は新聞部に苦情を申し立てに行くと言って席を立った。

蓮はいつものように机に伏して転寝を開始しようとしている。

雨宮は実験に戻り、セボンは話が終わったことに気がつかないで事件を考えているようだ。

つまり、一瞬にして日常に戻っていたのだ。

涼は悩んで損したかもと思いつつも、どこかほっとした気分で会計報告の書類を作り始めた。

 

 

 

その頃、教室に残っていた慎は部活に行く気配もなくのんびり鼻歌を歌っていた。

 

「あの個性派の面々が、涼を真ん中にまとまってるっていうのが、一番の事件なのじゃないかな〜?」

 

慎は窓で仕切られた夕焼け空を見る。

中学で知り合った頃には、すでに個性派の友人に囲まれていた涼。

涼っちってなんか和んじゃうからね〜と笑う慎にとっては、それすらもありふれた事件だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

うふふ・・・何日ぶりの更新かしら?

笑って誤魔化したい海市です・・・(汗)

リアが忙しいとか言い訳しつつも、ゆずりんの頑張りを思えばそうそうサボってもいられないわけで・・・

いつものように駄文ですが、一応アップしちゃいました。

BLの欠片もないけど、まぁ・・・科学部ってこんなだよ〜っていうのが少しずつ伝えられたらって思ってます。

しかし・・・あれだな〜最近小人さんが書いてくれないな・・・(遠い目)


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